燦々と降り注ぐ太陽の光が木々の隙間から森へ差し込む。
精霊と魔物が棲まう森――魔物の森に、近隣の村に住む子供たちが遊びに来ていた。時間は昼時を過ぎた頃。各自家から持ってきた弁当を食べ、昼寝をしている子供の姿も見受けられる。
「エセル、チビたちは全員寝たみたいだよ」
「おや。全員寝てしまったんだ。まあ……、今日はホースドーレスに乗って森の中を駆け巡ったからね」
「ああ。久しぶりだったのもあるけれど、はしゃぎ疲れたんだろうね~」
「風を切って走るのは、とても楽しいからね」
周囲を見回すと、魔物を枕や布団にして寝ている子ばかり。村から出ている精霊使いや魔物使いが羨みそうな姿だ。
子供たちの中でも年長の姉弟――エセルとディータは、それぞれの契約魔物にもたれながら母の作ったマフィンを食べ始めた。これは子供たちと一緒におやつとして食べる予定だったのだが、幼い子供たちの面倒を見て回っていた二人には、弁当だけでは足りなかったのだ。
「……ん、さすが母さん。おいしい」
「うん、おいしいね。私も早く、母さんのようにおいしい料理やお菓子を作れるようになりたいな」
「エセルの作る料理もお菓子も、全部おいしいよ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけれど、お店を開くには皆がおいしいと言ってくれるものが作れるようになりたいんだよ」
「そう言うものかなあ? まあ、俺はエセルを応援するよ」
「ありがとう、ディータ」
ふわふわと柔らかい毛並みにもたれ、マフィンを頬張る二人の周りを、モフモーラたちが楽しそうに遊んでいる。地面、二人の頭や肩、膝の上、二人がもたれている契約魔物の体の上など、跳ね回り、飛び回り、転げ回っていた。
エセルの近くには、モフモーラなど小さい魔物のために作ったクッキーが入っていたカゴが置いてある。その中に色とりどりのモフモーラたちがひしめき合っており、ふわふわの毛玉の山を作り上げていた。
「……あとでブラッシングをしないといけないね」
「いつものことでしょう。エズメとアイラ、子供たちにも手伝ってもらえばいいじゃない」
「うん、そうしようか」
さわさわと、木々の葉がこすれる音が鳴り響く。
今日は晴天。見上げた先には、木々の隙間から青空が覗いている。
「ん~……」
「眠い?」
「少し」
「ふふっ。それなら、ディータも寝るといい。あの子たちが起きたら、元気を吸い取られてしまうよ?」
「ん、そうだね。ちょっと寝る。……おやすみ、エセル」
「おやすみ、ディータ」
そっと、ディータから力が抜けていく様子をエセルは見つめていた。相変わらず眠りにつくのが早いと思いながらも、寝起きの姿を思い出して頭を横に振る。ディータの寝起きは最悪なのだ。
「エセルは、寝ないの?」
立ち上がり、ブランケットをディータにかけようとすると、エセルに話しかけるものがいた。ディータの契約魔物であるディオだ。
「うん? そうだなあ……、気持ちのいい天気だから読書でもしようかと思っていたんだけれど」
「寝ろ」
「クォル~。自分の主なんだから、もうちょっと優しい言葉使えないの?」
「ハッ。お前の二重人格よりマシだろう」
「こらこら、喧嘩しないの。君たちが喧嘩したら、子供たちが怪我をするじゃないか」
エセルの言葉に、ディオとエセルの契約魔物であるクォルは視線を合わせ、仕方がないとばかりに視線を逸らす。
以前、喧嘩をした際にエセルとディータの弟妹、エズメとアイラに怪我を負わしてしまい、一ヶ月もの間エセルの作るお菓子と歌の禁止令が出されたことがあるため、二匹は滅多なことでは口以外を使った喧嘩をしなくった。契約を交わす前からエセルの作るお菓子と歌を気に入っていた二匹には、知り合いの魔物使いが心配するほどのダメージがあったのだ。
「……主、共に寝るぞ」
「うん? クォルも寝るの?」
「僕も寝るよ~。精霊や他の魔物もいるし、僕たちが少し眠るくらいいいんじゃない?」
「う~ん、分かった。一時間ほど寝ようか」
「嗚呼」
「うん、おやすみ~」
そよそよと音を立てながら舞い踊る木々の下、精霊や魔物と眠りにつく魔物の森の子供たちがいた。
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エセルと毛玉と伯爵家
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