雲雀ジュンと水無瀬政紀

「だーかーらー! もっと素直になれってば!」
「い、いや。だってさあ」
「だってさあ……、じゃないよ! せっかくアカリちゃんが遊ぼうって誘ってくれたのに、サボるってのかお前!」
「サボるわけじゃ、ないけどさ……」
「だったらなにさ!」
 オレは雲雀ジュン。今、オレに怒鳴られているヘタレは水無瀬政紀って言って、オレの家の近所に住んでいる幼馴染みってやつだ。
 こいつは二ヶ月ほど前に、ちょっと人としてやってはいけないことをやった。
 他人様の大切なものを、自分が欲しいからって奪ってしまったのだ!
 まあ、今は解決しているから気にしないでね。オレとこいつのお母さんがし―――――っかり、怒ったから。いやあ、あの時は怒った怒った。それはもう、怒った。
「落ち込むぐらいなら、やらなきゃよかったんだ! アカリちゃんを悲しませるようなことを!」
 オレにとって、アカリちゃんは恩人だ。
 そのことは知らなかったとは言え、こいつはアカリちゃんを泣かせた。それだけは許せない。
 まあ、もう……アカリちゃんが怒ってないからなあ。
 オレがこいつに怒りをぶつけているのは、ただの八つ当たりだ。
 いやあ、もう。本当……むかつく。
 むかついて、むかついて。自分勝手な気持ちで八つ当たりしてるオレも、そんなオレに気づいておきながら文句一つ言わないこいつも。全部がむかつく。
「ほら、行くぞ」
「あ、ああ……。分かった」
 オレだって、八つ当たりしたいわけじゃない。こいつに文句をいいたいわけじゃない。
 アカリちゃんと仲良くしてもらいたいと思ってるんだ。
 現に、アカリちゃんは、まだこいつのやったことを許せないって言っているけど、友達になりたいって言って遊びに誘ってくれた。
 でも、こいつがなあ……。
「おい、政紀。アカリちゃんは、お前と友達になりたいって言ったんだ。お前のやったことは許せないけど、お前が簪を大事に持って、一ヶ月も自分のことを待っていてくれたからって」
「ああ、分かってる。優しい子、だよな」
「おう、分かってるじゃん。アカリちゃんは優しい子だよ」
 本当に、本当に……。
 だからオレは、こいつとアカリちゃんが本当に仲良くなって、友達になってくれたら嬉しい。嬉しいんだ。
 だって、オレはこいつのこともアカリちゃんのことも大好きだからな!
 こいつとアカリちゃんが仲良くなったら、オレはもっとこいつとアカリちゃんと仲良くなれる。
 ううん。仲良くなりたいと思ってる。

「アーカーリーちゃーん!」
「うるさい!」
「光一は読んでないだろ」
「もう、なんなのさジュン。うるさいよ」
「よー、三希。アカリちゃんいる?」
「いるよー! ようこそ、ジュンくん。それと……、政紀くん」
「おう。久しぶり、だな。アカリ」
「うん」
 ぎこちない。ぎこちなさすぎるぞ、政紀!
 いや、アカリちゃんもか!
 あーあーあー。アカリちゃん大好きな光一と三希がお前を睨んでいるぞ、政紀!
 もっと、堂々とするんだ。そして、光一と三希がうらやましいって言うぐらいアカリちゃんと仲良くなれ!
 このシスコンたちはアカリちゃんとお前が会うことを嫌がっていたからな。まあ、オレが事前にアカリちゃんのお母さんに相談してたから文句は言えないけどさ。
 アカリちゃんに、政紀とオレを遊びに誘うように言ったのは、アカリちゃんのお母さんだ。オレは暗躍しただけで、アカリちゃんになにも言ってないし、政紀にはやる気出せと鼓舞しただけだ。
 光一と三希は、アカリちゃんがお母さんの提案でオレたちを誘ったと思っている。バレてなかったら、だけどな。
 だから……、まあ。なんとかなるだろ!
「ほらほら~。これから遊ぶって言うのに固いよ、お二人さーん」
「ジュンくん。なんか……、出会った時と性格が違う、ね?」
「そうかな?」
「うん。なんだか、すごい喧嘩っ早い感じがする」
 アカリちゃん、正解。
 オレ、上も下も男だらけの六人兄弟の四番目だから、兄貴たちのおかげで口は悪いし手も足も出る、学校では問題児に数えられるぐらい喧嘩っ早いぞ。まあ、暴力沙汰を起こしたら兄貴に殴られるから、絶対にやらないけどなー。
 ちなみに、アカリちゃんを家に泊めた日は、女の子がいるからって喧嘩しないように兄弟全員我慢した!
「あー、猫かぶりってやつ?」
「うわ、布団おばけより面倒なやつだ」
 おい、そこのツンデレ兄弟。聞こえてるぞ。
「んー、アカリちゃんは出会ったころのほうのオレがいいかな?」
「えっと、そのままのジュンくんでも大丈夫、だよ?」
「そっか! そっかー! ほら政紀! アカリちゃんは優しいだろ!」
 政紀の背中を叩きながら言うと、政紀は嫌そうな顔をしながら「いたい」とつぶやいた。
「ジュ、ジュンくん。そんなに叩いたら、アザができちゃうよ」
「んー? だいじょぶ、だいじょぶ! 手加減はしてる」
 だってさー。政紀ってば釣りばっかやって、サッカーとかバスケとかには参加してくれないから、オレより年上なのにオレより体力とか持久力とかないんだよねー。
 それで、オレは毎日兄弟たちと食事の時は戦争してるし、普通に兄弟喧嘩もしてるから、本気で叩いたりしたら大変なことになるしな!
 いやあ、手加減を覚えるの大変だったなー。
「そ、そうなんだ」
「うん。な、政紀」
「まあ、そうだな。痛いけど。昔よりは、加減してもらってる」
 政紀がそう言うと、後ろから「じゃあ、前はもっと加減してなかったのか」とか「力加減しないとどうなるんだよ。骨折か?」なんて言う言葉が聞こえてきたが、無視だ。無視!
「ほらほら、早く遊ぼうよー」
「ああ。えっと、なにを……したい?」
「えっと、あのね。あの、えーっと……。サッカーをやってみたいんだけど」
 お、いいね!
「いいよー。やろう、やろう」
「ボールは持ってるのか?」
「光一と三希のボールを借りたんだ」
 ってことは、こいつらも参加ってことね。
 光一と三希に視線を向けると、睨まれてしまった。
 はいはい。お前たちの大切なアカリちゃんは取りませんよー。
 オ・レ・は・ね。

—————————————————————————-
僕とメルと君の探し物屋
Novel TOP
Home

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。